個展に寄せて
弘前市長(当時)  金澤 隆

吉澤秀香先生には、このたび東京銀座で個展を開かれる由、心からお祝いを申し上げます。「書の世界V」と銘打つこの個展では、先生ならではの次元の高い豊かな精神世界が、一段と広がりをもって自由自在に展開されるものと、ご期待申し上げるものであります。

先生が日々の厳しい鍛錬により培われた力量は、日展や毎日書道展などでの数々の受賞、選抜展・招待展への出品など、輝かしい実績が如実に物語っており、その書に対する真摯な姿勢は、時代を通して磨き抜かれた芸術のみが持つ厳粛な精神性を、私どもに伝えずにはおきません。

弘前市は、藩主・津軽氏が代々居城を構えた城下町であり、400年の歴史が積み重なって独自の伝統・文化を形成してまいりました。そして数多くの文化財が古都の風格を醸し出す中で、伝統を引き継ぎながら新たな文化を創造するための様々な芸術活動・文化活動が行われております。

先生もまた、鐵心書道会会長として、精力的に後進の指導に当たられ、昭和62年に青森県芸術文化報奨を、そして昨年は青森県芸術文化振興功労賞を受けられました。まさに弘前の文化を牽引するものであり、そのご努力に深く敬意を表するものです。このたびの個展が、吉澤先生の更なる飛躍の契機となりますよう、切にお祈り申し上げる次第であります。

地域に育まれた芸術は、地域に深く根差せば根差すほど普遍性を獲得するものであります。今回の個展を鑑賞される皆様には、墨跡に躍動する清冽な北の文化を心行くまで味わっていただきたいと存じます。