ごあいさつ

吉澤 秀香

此の度「書の世界X」を開催することになりました。

平成8年3月、銀座松坂屋画廊で企画展を開いてから13年たちました。

その間、「母に捧げる書作展」、中三弘前店スペースアストロでの大作展「書の世界W」を開催してまいりました。
本州北端のこの津軽で、雪の中でじっと耐えながら、書に夢中で過ごして来たように思います。七人兄弟の長女の私は、五歳の時に近所にある習字会で筆を持ったのが初めてでした。

両親の厳しい躾、一道に徹した父の姿を見て育ちました。

私の住む弘前には、北門書道会という78年の歴史を刻んでいる会があり、比田井天来先生の流れをくみ、古典を中心とした書道会で、女学校一年生の時から指導を受けて参りました。若い頃から中央展への出品にあこがれていた私は、作風に魅力を感じていた明石春浦先生の門を叩き、指導を受けるようになり、お亡くなりになるまでの25年間、徹底した指導を受け、弘前から先生の稽古場に通い詰めました。

毎日書道展の初入選は18回展の時で、『とける鐵・鐵・鐵 フイゴの風を受けて』という自作の詩を、還暦の父の為に書いたもので、私の書の原点となった作品です。
退職まであと10年を残し、50歳で依願退職し、教員生活にピリオドを打ち、書一筋の日々を送るようになりました。平成元年には、毎日書道展で会員賞を受賞することが出来、あの感激を忘れることができません。

  高校の書道講師、大学での講師、NHK文化センター講師、ヨークカルチャー講師をはじめ、多くの人々に書のすばらしさを伝えてまいりました。
昨年、鐵心書道会も創立から半世紀、社中展・児童展も、30回の記念展を開催することが出来ました。

教員、主婦、子育て、姑への服従の日々と、目のまわる毎日でしたが、1日が終わってからの書に向かう時間は、私にとってたとえようのない至福の時でした。

月刊書道雑誌は10種類ほど求め、勉強の糧にしました。本物を見たい、どの本が本物に近いのか、確かめたい気持ちが高鳴り、中国をはじめ、エジプト、トルコ、アメリカ、ドイツ、イタリア、スウエーデン、カナダ、アジア諸国と世界行脚をし、日本の文化紹介や展覧会出品等々、自分の眼で衣・食・住と文化に触れてきたように思います。
すべてが勉強になったと考えています。

そして、改めて日本のすばらしさ、四季折々に美しさを変える弘前の良さも身をもって知りました。

平成14年10月に、龍門石窟世界遺産登録記念碑の建立には、白楽天の詩を書き、私の書人生の記録となりました。龍門20品は、北門書道会で随分勉強させられただけに、感激もひとしおでした。

  「書の世界T」では、師匠にすすめられて、昭和61年5月の個展で、自分の原点に立ち、次への発展の糧としたいとの願いからでした。

  「書の世界U」は、平成5年4月開催で、父二唐国俊、姑吉澤ソヨ、夫荘七との永久の別れがあり、書の幽玄な世界が、私を哀しみや苦しさから救ってくれた個展でした。書を愛し、書の仲間を愛したいとの願いからの展覧会でした。

  「書の世界V」は、平成8年3月、銀座松坂屋画廊での企画展で、緊張の日々でしたが、何事も書くことで忘れて、心豊かに1日1日感謝で過ごしたいとの思いでの展覧会でした。青森での展覧会と都会との違いをはっきりと身に感じた忘れられない一週間で、機会があったら又したいと強い思いがありました。

  「書の世界W」は、平成14年11月に地域文化功労で文部科学大臣賞をいただき、平成12年10月に青森県褒賞を、平成9年11月青森県文化賞を受賞した記念の展覧会でした。多くの皆様の励ましとご厚情によるもので、その際に上梓した作品集には、書のほかに私の記録として心にとどめておきたい想い出の写真も掲載しました。

昭和62年には、「吉澤秀香後援会」が多くのファンの方々により設立され、現在に至っています。今回の「書の世界X」は、後援会が主催するもので、会員の皆様のご協力によるものであり、衷心より感謝しています。

同じ道を求める人たちと共に歩き、世のある限り続けて参りたいと思っております。

最後になりましたが、今回玉稿をお寄せ下さいました美術評論家の田宮文平先生、親友の女子美術大学学長・佐野ぬい様に感謝申し上げます。また、後援会会長・今井高志様はじめ、会員の皆様、鐵心書道会の会員の皆さん、私の個展の全ての企画を担当してくれた教え子でノースプラットフォーム代表・小山内誠様、はちのへ額装様、ライター・清水典子様、写真家でスタジオ26の栗形昭一様、やまと印刷様、鐵心書道会事務局長・佐藤寿子様の多大な御協力に心より感謝申し上げます。    

平成二十一年二月吉日